研究概要
本コースは森林動態、生物多様性、地域資源管理の3教育分野を含んでいます。広大で多様な研究林フィールドを舞台に、野生動植物の生態、生物間相互作用に関 する基礎的な課題はもちろんのこと、進行する地球温暖化、大気汚染、移入種、土地利用変化などに対する森林生態系・生物多様性の変化や維持機 構、森林資源の持続的管理についての応用的な課題に取り組みます。学生は、研究内容に応じて札幌院生室、北管理部院生室(名寄市)、各研究林 の院生室(苫小牧市、幌延町、音威子府村、幌加内町、古座川町など)に所属することができます。指導教員は、本学北方生物圏フィールド科学セ ンター森林圏ステーションに所属しています。
<3つの教育分野>
<主要な研究プロジェクト>
地球温暖化に対する冷温帯森林生態系の生物多様性の応答
地球温暖化に対する冷温帯林生態系の応答の解明を目的として、冷温帯林の代表的な遷移後期種のミズナラ、遷移中期種のダケカンバに断熱線処理を施して温度操作実験を行って います。20m以上の高さにある林冠木にジャングルジムに上ってアクセスし、温暖化が樹木と植食性昆虫の相互作用に与える影響を調べていま す。また、森林限界付近に生育するハイマツ林の地球温暖化による分布衰退の直接的・間接的要因を明らかする研究も行っています。
- 研究フィールド:苫小牧研究林・中川研究林
気候変動による積雪変化が森林土壌の物質循環機能に及ぼす影響
地球温暖化による積雪減少は、初冬や初春における土壌凍結・融解のサイクルを増幅させると予測されていますが、土壌内の物質循環変化やメカニズム、それに関わる立地環境、 微生物や植生等の生物要因に関する詳細は不明です。そこで本共同研究プロジェクトでは、積雪減少の物質循環影響を解明するため、列島スケール での気候傾度を活用して、野外での土壌移動培養実験や操作実験を日本各地の森林で実施しています。
- 研究フィールド:雨龍研究林、全国の森林サイト
総合的な陸域生態系情報の開発
人工衛星によるリモートセンシングと、研究林における大規模な地上モニタリングを統合化し、より精度の高い陸域生態系の広域評価にむけた情報整備とアルゴリズム開発を行っ ています。それによって地球温暖化に対する森林生態系の応答や炭素貯留速度、フェノロジー変化、環境保全機能の広域スケールでの評価を目指し ています。
- 研究フィールド:中川研究林、雨龍研究林、天塩研究林、苫小牧研究林
大規模柵を用いたシカと動植物群集の相互作用に関する野外実験
苫小牧研究林のミズナラ林に設置した16.5haの柵内に数頭のシカを導入し、高密度化させました。そして、約3haのシカ排除区、20haの対照区(シカ自然密度)と共 に、森林生態系の変化をモニタリングしています。ここでは植物の生産性を高める操作(高木伐採・施肥)も行っています。これまでに土壌動物・ 鳥類・節足動物・林床植物と、シカ密度や植物生産性の関係などが調べられてきました。
- 研究フィールド:苫小牧研究林
捕食者と被食者の表現型可塑性の生態学的意義
捕食者の存在や餌の利用状況に応じて、行動や形態、生活史などの形質を可塑的に変化させる生物がいます。本プロジェクトの目的は、捕食-被食系でみられる個体の可塑的な変 化が、個体群動態や群集構造にどんな影響をもたらすのかを明らかにすることです。行動や形態に著しい可塑性をもつエゾサンショウウオ幼生とエ ゾアカガエルのオタマジャクシを対象に、野外と実験室での操作実験により可塑性の生態学的意義を調べています。
- 研究フィールド:天塩研究林
同所的種内変異が生み出す相互作用と群集レベルの効果
普通、個体群は性質の異なるさまざまな個体によって構成されます。しかしながら、従来の個体群・群集生態学は「個体群を構成する個体は同じ性質をもつこと」を前提として発 展してきました。本プロジェクトでは、エゾサンショウウオ幼生個体群をモデルとして、個体の変異が小さな個体群と大きな個体群の比較を通し て、変異がもたらす種内・種間の相互作用を明らかにするとともに、群集構造や生態系機能への波及効果を調べています。
- 研究フィールド:天塩研究林
照査法による持続可能な森林施業法の開発
1966年に面積110ヘクタールの試験地を設定して以来、世界的にも有数の大規模な伐採実験を継続しています。当初は、時代の社会的な背景から、木材収穫のみに焦点を充 てていましたが、半世紀近くに及ぶ立木の成長・枯死、撹乱に関する詳細なデータの蓄積、リモートセンシングの成果を活かして、近年は、生物多 様性や他の生態系機能に関わる調査を行ない、これらへの影響を考慮した森林施業を確立することを試みています。
- 研究フィールド:中川研究林